Lawless Area

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悪の教典(ネタバレあり)


友人が何かの会話の拍子にこの作品について話し始め、あらすじを聞いてかなり読みたくなったため読んだのだが・・・

うん・・・、あの・・・、確かに凄く面白かった。

かなり分厚くて、しかもそれが上下巻と2冊あるにもかかわらず、合計で5、6時間ほどで一気に読んでしまったぐらいだから。

ただ、内容が内容だけにものっそい後味は悪かった。


私は実のところ密かに人間的な感情が欠落してるんじゃないかと、中二病的なことを半ば本気で思っており、この物語の主人公である蓮実聖司の「著しく共感能力に欠ける」という設定にかなり興味を持っていた。

今思えばそういうところに「共感」している時点で、そんなわけあるはずもなかったのだが、中二病をこじらせるとそんな簡単なことにも気付かなくなるらしい。

そんなわけで、そんな超☆中二病である私が興味を持つ蓮実はどういう人物で、過去何を行いこれから先どういう行動をとるのか、その一挙手一投足から目が離せなかったためサクサク読むことができたというわけである。


遅くなったがこの作品はどういう作品なのか、公式サイトよりも大学教授から忌み嫌われているWikipediaさんの方が分かりやすかったのでこちらのほうを載せておく。

暴力生徒やモンスターペアレント、集団カンニングに、淫行教師などの問題を抱える私立高校につとめる蓮実聖司は、有能で人気者だが裏では自分に都合の悪い人間を次々と殺害していき一部の生徒から疑われ始めていた。
文化祭の前日、蓮実は邪魔になった女生徒を自殺にみせかけて始末しようとするが手順が狂い殺人の嫌疑がかかりそうになる。それを覆い隠すため出し物の準備のため校舎に泊り込んでいたクラスの生徒全員を同僚の教師の仕業に見せかけて散弾銃で皆殺しにしようとする。こうして一夜の血塗れの大惨劇が始まった。


最初私は「蓮実聖司という男は通常の人間とは異なり殺人も容易に行える」くらいの情報しか持ちえていなかったため、この一見して完璧超人である男が一体何をしでかすのか、この物語のクライマックスは一体どうなるのかが全く想像できなかった。

上巻では蓮実という人物についての描写と、彼が邪魔なものを排除することにためらいを覚えず、非常にクレバーな方法で問題を解決するという描写のみだったため、そこまで凶悪だという印象は抱かなかったのだが、下巻でようやくこの蓮実という男は本領を発揮する。

上巻など可愛いものだった、下巻ではそれはもう大量の、しかも罪のない人間の命を理不尽に奪っており、読んでいてなんともモヤモヤとした気持ちにさせられたものである。


特に蓮実と肉体関係にあった美彌を筆頭に、蓮実に対して親愛の情を抱いている生徒を(美彌を除いて)何の躊躇いもなく殺害してしまうシーンは、流石の私も顔をしかめずに読む事はできなかった。

とはいえ、蓮実の実に個人的な動機によって、閉鎖された学校で逃げ場を失った生徒が次々と殺されていくシーンは、一体何人が生き残るのか、蓮実は最終的に捕まるのかとても気になるように描写されており、作者の人を引き込む力の強さに圧倒されたものである。

途中から、生徒達VS蓮実という構図が、怜花と雄一郎VS蓮実となってからはいよいよどう転ぶか分からなくなり、その引きの強さによって最後まで一気に読まざるを得ないほどだった。


結果として蓮実によって生徒は全員殺されてしまうかと思っていたが、何とか怜花と雄一郎が生き残り、蓮実がめでたく逮捕されたことで蓮実の敗北という結果になった。

かと思いきや、捕まってからすぐに心神喪失を狙って演技し始めた蓮実の切り替えの早さに余り勝った気がしなかったが、この後味の悪さは非常に面白い終わらせ方だったように思える。

用意周到でありながら、美彌を事前に呼び出しておかなかったことであゆみに2人の仲を疑われたり、AEDの録音機能を失念していたり、避難袋に血がついていたことから怜花と雄一郎ではなく遺体を使った可能性を考慮しなかったりと、ところどころ「?」と思う描写もあった。

が、それよりも話の導入から読者を作品に引き込む力、伏線の張り方、余計な描写をしないことでテンポ良く進む物語、と良い所の方が多く見られ、読んでいて飽きない作品だったように思える。

人が死ぬ話が嫌いな人や、ハッピーエンドが好きな人には向かない作品だが、私のようにちょっとひねくれていたり、何でも来い!という人であれば楽しく読めるのではないだろうか。